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最新コラム

2023年6月24日

『スパズム治療に革命が!?』



こんにちは。

脳神経外科看護研究会(NurCe)代表の下田健太郎です。


くも膜下出血後のスパズム予防治療に大きな変化が起きようとしているのをご存知ですか?


今から約20年前、くも膜下出血後のスパズム発生予防にはトリプルH療法といって、大量輸液(Hypervolemia)、高血圧(Hypertension)、血液希釈(Hemodilusion)を行っていました。


SAHのクリッピング術後にCVを入れて、1日約5000ml、多い時には10000mlなどの大量輸液をし、ドブタミンを持続静注して血圧を上げ、低タンパク血症になったらアルブミンを投与するなどしていました。


しかし、水分バランスが崩れたり、低タンパク血症になると心不全、肺水腫を起こして、全身状態が悪化して、しまいにはスパズムを発生してしまう、などの苦い経験をした方もいるかと思います。


その後、トリプルH療法は、実験レベルでは脳血流を増やすことが知られていますが、臨床レベルだと予後を悪くしかねない、ということがわかり、スパズム予防ではなく、スパズムが発生した時のみの救済措置として扱われるようになりました。


そのような苦い経験を経て、現在では脱水にならない程度に通常用量の輸液を投与し、低ナトリウム血症を避けるようにして正常輸液量(normovolemia)で管理しています。


トリプルH療法からnormovolemia管理となり、2022年4月に新薬が開発されました。その薬の名前は、クラゾセンタン(商品名:ピブラッツ®)です。イドルシアファーマシューティカルズジャパンというスイスのベンチャー企業が開発したのです。


この薬は、血管内皮細胞から分泌される血管収縮物質であるエンドセリン(ET-1)の受容体(ETA)を阻害して、血管収縮を抑制しスパズムを抑えます。


脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血のクリッピング患者を対象とした臨床試験で、クラゾセンタン群はプラセボ群に比べて統計学的に有意にスパズムに関連した症状の発生割合が低く、死亡率も低いことが証明され、2022年4月から保険承認されました。


基本的な適応は

  1. WFNS分類 Ⅴ以外の患者(軽症〜中等症のSAH患者)

  2. 脳梗塞が広範囲でない患者

  3. Fisher分類3の患者


1〜3以外の患者における有効性及び安全性は確立していません。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)は特徴的な薬です。


投与方法は24時間投与、単独ルート(フィルター付き)です。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)でもっとも注意すべき副作用は体液貯留(胸水13%、肺水腫11%、脳浮腫0.5%)です。初期症状としては、喀痰、咳嗽、息切れ、頻拍、頭痛、めまい、視力低下などが起こるといわれています。


ですので、輸液量は従来のnormovolemiaのときよりもさらに輸液をしぼりましょう、という流れになっています。医師によっては、クラゾセンタンの持続投与のみ(1日輸液量500ml)としている先生もいるようです。


SAH管理について、約20年前は大量輸液、その後normovolemiaとなり、現在はhypovolemia管理という流れになってくるかもしれません。


20年前は1日輸液量10000mlだったのが、今はなんと500ml!?20年前と比べて20分の1の輸液量となるかもしれません。まさにスパズム治療に革命が起きるかもしれません。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)はまだ保険承認されたばかりの薬剤ですので、その有効性や安全性の是非について注視していく必要がありますね。


ぜひクラゾセンタン(ピブラッツ®)を投与するときには、水分バランス(プラスになりすぎないように)と初発症状(咳嗽、息切れ、SpO2低下、頻拍など)に注意して観察してくださいね。




■『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』(最新情報追加)



毎年恒例の『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』を7月23日(日)に開催します。

今回は、2023年に発表された最新の臨床試験の結果や機械的血栓回収療法や脳動脈瘤治療における新規デバイスの紹介、さきほどご紹介したクラゾセンタン(ピブラッツ®)の紹介なども行います。


「前に受けたことあるから今回はいいや」と思っている方にも満足してもらえるような内容になっています。


復習をかねて最新知識を学んでみたい方がいらしたら、ぜひ参加してくださいね。


■『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』(最新情報追加)


日時:2023年7月23日(日)10時〜15時+座談会約30分

場所:オンライン(ZOOM)

講師:下田健太郎

参加費:9900円(税込)、100ページのテキスト付き

https://nurce202307.peatix.com


【想定トピック】

  1. 脳卒中患者の全身管理

  2. 脳卒中発症予防

  3. 合併症予防・治療

  4. 脳卒中リハビリテーション

  5. 脳梗塞の最新研究結果

  6. 機械的血栓回収療法の最新デバイス・治療方法

  7. 脳動脈瘤の最新デバイス・治療方法

  8. 過去のセミナーで多かったQ&A


*本会は、認定看護師の認定更新・再認定審査における「研究会・一般参加」として「3点」が加算される研究会に認定されています。


お問い合わせ:一般社団法人 NurCe脳神経外科看護研究会

E-Mail: nurcebrain@gmail.com

TEL: 080-8717-5747(担当:荻野)

WEB: https://www.nurce.net




今回のお話が少しでもお役にたてば幸いです。


最後までお読みいただきありがとうございました。


【発行責任者】

一般社団法人脳神経外科看護研究会

代表 下田健太郎


☆ご意見・ご感想は、本メールに返信する形でお寄せください。


・今後の案内が不要な方はこちらから本メールに返信する形でお寄せください。






NurCeコラムvol.11

『スパズム治療に革命が!?』



こんにちは。

脳神経外科看護研究会(NurCe)代表の下田健太郎です。


くも膜下出血後のスパズム予防治療に大きな変化が起きようとしているのをご存知ですか?


今から約20年前、くも膜下出血後のスパズム発生予防にはトリプルH療法といって、大量輸液(Hypervolemia)、高血圧(Hypertension)、血液希釈(Hemodilusion)を行っていました。


SAHのクリッピング術後にCVを入れて、1日約5000ml、多い時には10000mlなどの大量輸液をし、ドブタミンを持続静注して血圧を上げ、低タンパク血症になったらアルブミンを投与するなどしていました。


しかし、水分バランスが崩れたり、低タンパク血症になると心不全、肺水腫を起こして、全身状態が悪化して、しまいにはスパズムを発生してしまう、などの苦い経験をした方もいるかと思います。


その後、トリプルH療法は、実験レベルでは脳血流を増やすことが知られていますが、臨床レベルだと予後を悪くしかねない、ということがわかり、スパズム予防ではなく、スパズムが発生した時のみの救済措置として扱われるようになりました。


そのような苦い経験を経て、現在では脱水にならない程度に通常用量の輸液を投与し、低ナトリウム血症を避けるようにして正常輸液量(normovolemia)で管理しています。


トリプルH療法からnormovolemia管理となり、2022年4月に新薬が開発されました。その薬の名前は、クラゾセンタン(商品名:ピブラッツ®)です。イドルシアファーマシューティカルズジャパンというスイスのベンチャー企業が開発したのです。


この薬は、血管内皮細胞から分泌される血管収縮物質であるエンドセリン(ET-1)の受容体(ETA)を阻害して、血管収縮を抑制しスパズムを抑えます。


脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血のクリッピング患者を対象とした臨床試験で、クラゾセンタン群はプラセボ群に比べて統計学的に有意にスパズムに関連した症状の発生割合が低く、死亡率も低いことが証明され、2022年4月から保険承認されました。


基本的な適応は

  1. WFNS分類 Ⅴ以外の患者(軽症〜中等症のSAH患者)

  2. 脳梗塞が広範囲でない患者

  3. Fisher分類3の患者


1〜3以外の患者における有効性及び安全性は確立していません。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)は特徴的な薬です。


投与方法は24時間投与、単独ルート(フィルター付き)です。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)でもっとも注意すべき副作用は体液貯留(胸水13%、肺水腫11%、脳浮腫0.5%)です。初期症状としては、喀痰、咳嗽、息切れ、頻拍、頭痛、めまい、視力低下などが起こるといわれています。


ですので、輸液量は従来のnormovolemiaのときよりもさらに輸液をしぼりましょう、という流れになっています。医師によっては、クラゾセンタンの持続投与のみ(1日輸液量500ml)としている先生もいるようです。


SAH管理について、約20年前は大量輸液、その後normovolemiaとなり、現在はhypovolemia管理という流れになってくるかもしれません。


20年前は1日輸液量10000mlだったのが、今はなんと500ml!?20年前と比べて20分の1の輸液量となるかもしれません。まさにスパズム治療に革命が起きるかもしれません。


クラゾセンタン(ピブラッツ®)はまだ保険承認されたばかりの薬剤ですので、その有効性や安全性の是非について注視していく必要がありますね。


ぜひクラゾセンタン(ピブラッツ®)を投与するときには、水分バランス(プラスになりすぎないように)と初発症状(咳嗽、息切れ、SpO2低下、頻拍など)に注意して観察してくださいね。




■『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』(最新情報追加)



毎年恒例の『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』を7月23日(日)に開催します。

今回は、2023年に発表された最新の臨床試験の結果や機械的血栓回収療法や脳動脈瘤治療における新規デバイスの紹介、さきほどご紹介したクラゾセンタン(ピブラッツ®)の紹介なども行います。


「前に受けたことあるから今回はいいや」と思っている方にも満足してもらえるような内容になっています。


復習をかねて最新知識を学んでみたい方がいらしたら、ぜひ参加してくださいね。


■『ナースが知っておくべき脳卒中治療ガイドライン2021』(最新情報追加)


日時:2023年7月23日(日)10時〜15時+座談会約30分

場所:オンライン(ZOOM)

講師:下田健太郎

参加費:9900円(税込)、100ページのテキスト付き

https://nurce202307.peatix.com

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